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2005年09月02日

コタ、いつか、また会おうな


13歳というんだから、俺が17のことだったのか。

それまできちんとペットを飼ったこともなかった俺、そして家族が猫をもらおうと言う話になった。既に記憶は曖昧だけど、俺が当時住んでいた地方のミニコミ誌の「差し上げます」欄を見たことがきっかけだったと思う。俺は一度火がつくと止まらない性格で、その時も猫を飼うという新しい経験に頭がいっぱいになった。

母親が車を運転してその場所に着いた。住宅地から離れた田舎の家。庭には檻があって、鶏やら山羊やらを飼っているような変わったところだった。俺はと言えば、譲り受けようとしている猫がどんな姿なのか、そっちのことで頭がいっぱいだった。どの子だろうか。

その子が連れられてきた。キジ虎柄の小さな男の子だった。顔が可愛かった。飛び抜けて可愛かった。普段は部屋飼いでもなく、檻に入れられている訳でもなく、外で伸び伸びと遊んでいたようだ。それでも、汚いところもなく、とにかく顔が愛らしかった。こいつは見事だなあと思った。そして、俺はこいつとずっと一緒に生活することになるんだと思った。

帰りの車の中、吐いた。車に乗ることが初めてなのか、酔ってしまったようだった。家に戻り、環境に慣れるまでほっておいた。最初はソファーの下に潜りおびえていた。時間が経つと、のろのろと出てきてソファーの上に登った。とたんに下痢をした。ソファーは見事に汚れた。

すぐに病院に連れて行った。原因は寄生虫だった。薬を飲ませたりして、面倒をみた。しばらく経って、ようやく元気になった。ご飯もモリモリと食べるようになった。それからは男の子らしく、ものすごいパワーを発揮して家の中を走り回るようになった。俺は、特に意味はないけど彼に「小太郎」という名前をつけた。「コタ」と呼ぶようになった。

俺は一人っ子だったので、小さな弟ができたことを素直に喜んだ。柱を使って隠れんぼをした。廊下を使って追いかけっこをした。遊ぶのがとにかく大好きで、遊んで、遊んでと俺のところにやってくるのがとにかく可愛かった。ダッコをしては、お腹のところをグーでグリグリとやってやる。そうすると、コタはガブガブと俺のグーを噛んでくる。もちろん本気で噛むことはなかった。

ある日、俺が寝ようとベッドに潜り込んだ後で、コタが布団に入ってきた。中で俺に体をすりつけてくる。こんなことは今までに無かった。彼も一応男子だった。だから、過度に甘えることは無かった。最初俺は可愛くて嬉しかったんだけど、どうも様子がおかしい。ふと、コタの体が異常に熱いことに気付いた。初めての風邪だった。その後、俺は少しも体を動かさず、寝ることもせずに、コタのことを気遣った。とても辛い状態ではあったが、ブルブルと震えて病気に耐えるコタが健気に思えて、何とも愛しかった。

あいつも大きくなった。とにかく大きくなった。猫とは思えないほどにでかくなった。俺も大学院に入り、東京で生活をするようになった。コタとはちょっと疎遠になった。それでもたまに実家に帰ると、俺のことを覚えてくれているのかどうなのか、「あいつ、帰ってきたのか」と思ってくれていたのか、そっけないようで意識しているような態度だった。小さい頃の可愛らしさはどこへやら、ふてぶてしい王様猫のようになった。それでも、ちょっとした仕草の中に子供の頃に、一緒に遊んだコタの面影があった。

タンスに飛び乗ろうとして失敗した彼は脊髄を損傷した。猫とは思えない失敗だけど、それはそれでコタらしいと思った。ところが事態は深刻で、それ以降元気に走り回る彼の姿を一度も見ることはできなかった。走り回ることができない彼は、それまでと比べて明らかに元気がなくなっていた。実家に帰るたびにその姿を見るのが悲しくて、悲しくて。

それでも、子供の頃から大好きだったぬいぐるみを加えて「ナーン」と鳴くところ、俺の相方の手をガブリと噛みつくところなど、元気だった頃の姿をたまにかいま見せる。ガブリとやる癖は俺のしつけが失敗したためだ。本当なら笑っていられないところだが、あのガブリは俺とコタとの間にある、誰よりも強い絆なんだ。元気の無いコタがガブリとやるのを見て、俺は相方を心配すると同時に、昔の楽しかったたくさんのことを思い出すことができた。

今日、俺は名古屋近辺で仕事だった。客先のミーティングルームで、先輩がプレゼンしているのを横で聞いていた。ズボンの後ろのポケットに入っていた携帯が鳴った。相方からだった。仕事中に電話をしてくるのはよほどのことだと直感的に思った。


9/1(木)13:20、病院にて小太郎が死んだ。

13歳だった。


小太郎は俺が人生で初めて飼った猫だ。いや、一人っ子だった俺のかけがえの無い弟であり、いつでも一緒に遊ぶことができる友達だった。電話でその事実を聞いても現実感が無かった。事実は残酷なもんで、知りたくないことほど突然に知らされる。

あいつは鰹節が大好きだった。器用に手でタンスを開けて、鰹節の缶を下に落としたりしていた。そういえば、小さい頃はチーズも大好きだった。俺もチーズは大好きだ。自分で食べる時に、かけらにちぎって食べさせた。彼が死んだなんて事実は到底受け入れられない。俺は、いつだって実家に帰って、そしてあのでかい体のコタが、冷たい振りをしつつ、実はこっちを横目で見て迎えてくれるのを楽しみにしているんだ。

きっとこれからもずっとそうだろう。


今まで、ありがとう。

走り回っていてろよ。

そしていつか再会しよう。

投稿者 hideo : 2005年09月02日 02:39

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